最後の仕事の日
その人は、1年半前ぐらいから時折ランチに来てくださる初老の男性でした。
何度目かにいらっしゃったときに、うちのランチによく来て下さる女性の名前を挙げて、その人に教えてもらって来たんですよ、とおっしゃってました。
それはその男性の人生で二度目?それとも何度目かの就職のようでした。
普段はおひとりでいらっしゃって、大抵はタイカレーの大盛りとゆず茶。けれど、昨日のお昼は初めて、会社の女の子二人と来てくださいました。うちの店のことを紹介してくれた女性です。珍しいな、と思いました。実はその男性は夜にもうちに予約を下さってました。でもどなたといらっしゃるのかわからないし、会社の方には内緒かもしれませんし、会社の人といらっしゃってるときはどなたの場合でもプライベートに関することは言わないようにしています。それで夜のご予約の確認などはこちらからはしませんでしたが、男性のほうから「今夜ね。よろしくね」とおっしゃったので私も「はい、お待ちしてますね」と答えました。
そして夜になり、男性は手にいくつか、誰かに頂いたものらしき紙袋を持って来てくださいました。そのときにああこれはもしかしたら、と思いました。
「実は今日がね、仕事最後の日だったんですよ」とおっしゃいました。
お昼に会社の女性と来たのも、今日の予約も、やはりそういうことだったのか、と思いました。
夜はやさしい雰囲気の、まだその方も赴任してまもないと聞く若いけれど役職に就いている男性とともに、食べて飲んでいかれました。お帰りになるときに、お仕事辞めてもまた来てくださいねというと、「でも僕、〇〇市なんですよ」とちょっと遠いところにある地名をおっしゃるので、「そんなの、電車でピューッと1本じゃないですか」と言えば困ってるのか喜んでるのかわからない顔で笑ってました。
最後の日に、お昼も夜も、うちに来てくださって本当にありがとうございます。
男性って、ランチに通ってた店にちょっと愛着を残したりするんですよね。うちの武田がそうで、大阪で会社員をしていた時代によく通ってた定食屋をたまに懐かしむし、一度大阪に行ったときにそこに連れてってくれました。うちのお客様でも、退職したり移動したりでこの街から離れたあとでも、たまーにお昼ごはんを食べに来てくれます。もしかしたら昨日退職された男性も、この先1回ぐらいはまた、わざわざごはんを食べに来てくれるかな。
そう思うと、同じ場所で変わらず仕事を続けている、ということが、お客様にとって何よりのサービスなのではないかと思うのです。
またお会いしましょう!
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